京都大学公共政策大学院同窓会「鴻鵠会」

訪問インタビュー

設立10周年を迎えて
— 中西公共政策大学院長 インタビュー —

中西公共政策大学院長

2006年に発足した京都大学公共政策大学院は、昨年度に設立10周年を迎えました。大学院の立上げに関わられた、現役教員の数少ない一人でもいらっしゃる中西寛院長に、本院への思いとご専門である国際政治学について幅広くお伺いしました。(聞き手: 8期OG山科潤子)

◇公共政策大学院の10年

―― 立上げ当初に苦労された事はありましたか

 約10年を振り返って、ようやくここまで来たという思いです。
 一つには、小さいサイズでも新しい部局を作るにあたっては大学内や文科省との調整が大変でした。特に当時は専門職大学院という仕組みそのものが新しく、沢山の会議や相談をしました。
 京都大学の中でもこの部局は「公共政策連携研究部」と、唯一「連携」という言葉がついています。これは、法学研究科と経済学研究科の連携した運営が基盤となる事を明示しています。従来の枠を超えて相談する事が、各研究科のカルチャーの違いもあって最初は結構大変でしたね。
 二つには、実務家の先生を招致する枠組みもまだ新しく、京都の地理的特性もあってよい方をお迎えするのは難しい事でした。立上げの中心となった先生方が交渉に大変尽力されました。当時の実務家教員の方によれば、この様な新しい部局を京大で作る事に、大いに意義を感じてお引受け頂いたとの事です。後に日銀総裁となられた白川先生をはじめ、暗中模索の時に助けて頂いた実務家の先生方には、今でも感謝しています。

―― 現在、その成果についてはどうお考えですか

 かなり上手くいっていると言えるのではないかと思います。特に学生の志望者数や進路先について、発足当初は本当に心配していました。ですが今は、志願者数もそれなりに安定し、進路先もほぼ全ての人が国家・地方公務員、その他公共部門や民間企業等へ就職しているので、組織として一定の成果を出している様に思います。
 これには色々な理由があると思いますが、特に本院の特徴として、1学年40名の少人数の中に多様なバックグラウンドを持つ方がいる、珍しい環境があると思います。出身大学や学部にも幅があり、職業人の方が1学年10名程いて、留学生も数名いる事が多いです。そういった中での切磋琢磨や相互刺激が、進むべき進路や世の中への視野の拡大に、大きな効果を与えているのではないかと思いますね。

◇研究者としての一面

―― 国際政治学者となられたきっかけは何でしょうか

 ひとつは、師である高坂正堯先生のゼミを取った時に大きな刺激を受けて、もっと勉強したいと思った事ですね。先生は京大の国際政治学を事実上作った方で、研究者としても人間としても非常に魅力的な方でした。
 もう一つですが、私が学部から院に進む頃が、ちょうど1980年代中頃の中曽根政権の時でした。その頃は日本で国際問題への関心が高まった時期でもあり、海外の情報がかなり豊富に入る様になっていました。その中で、日本で議論される国際問題の見方が時代と合わなくなってきており、それを変えられないかという問題意識が自分の中であった様に思います。ですから国際政治という分野で、海外の問題や日本と世界の関係を勉強したいと思い、この進路を選びました。

―― 大学時代はどんな学生でしたか

 ほどほどに勉強して、ほどほどに遊んでいたという感じです。私はESS(English Speaking Society)というサークルに所属していて、ディベートを中心に活動も結構しましたね。海外の情報が日本に入ってくる中で、当時割と新しかった、アメリカで学生の取組むディベートというものを日本でもやろうという機運があり、それにある程度影響を受けました。
 英語は高校の頃から好きで、当時FENという、米軍が軍事用に流していた短波ラジオがあって、それを聞きながら受験勉強をしたりしていました。

中西公共政策大学院長

―― 国際情勢についての所感をお聞かせください

・ 北朝鮮の軍事問題 (8/29の弾道ミサイル通過を受けて)
 北朝鮮の軍事行動に対して、今国際的に制裁が強まっています。しかし北朝鮮がこの程度で従来の方針を変えるとは、多くの専門家は普通考えていません。その意味では今回の事態は想定の範囲内だったと思います。
 今回北海道の方向へ向けて、弾道ミサイルを発射した意図はよく分かりませんが、少し前に北朝鮮は短射程のミサイルを打っています。ですので、徐々にミサイルの質をあげてゆき、今後グアムの方向に打つ可能性も示唆する形のデモンストレーションとして打ったのではないかと思います。ともかく北朝鮮としては、あくまで対等な立場で米国と協議したいのだと考えます。ですから国際制裁や米韓の軍事演習の時に、圧迫されて大人しくしている印象は作りたくないのでしょうね。
 正直なところ、北朝鮮に対する有効な制裁措置は非常に難しいです。仮に中露が安保理の決議案に同意して石油を止めたとしても、その効果が北朝鮮の政府に影響を及ぼすまでには、かなり長い時間がかかるでしょう。恐らくそれまでに、北朝鮮はより激しい挑発的行動をとって危機をエスカレートする事態となり、日米はその対処を問われ得ると思います。

・ EU体制の今後 (8/31の日英首相会談を前に) 
 今年のフランスの大統領選挙ではマクロン氏が勝利しました。また9月下旬のドイツ総選挙の結果次第ではありますが、恐らく今の所メルケル氏が4選を果たす見通しです。反EUの動きが支持を得なかったという意味では、去年イギリスがEUの離脱を発表した時のように、EUの体制が崩壊して解体していくといった流れは少し止まって、やや落ち着いたかと思います。
 ただそれでEUが安泰かというと決してそうではありません。イギリスのメイ政権は総選挙での敗北が響いており、非常に弱体な状況でEUとの離脱交渉をしないといけないので、それがスムーズにいくかはかなり疑わしいです。またEU内でも特に東欧のポーランドやハンガリーではかなり権威主義的な政権が出てきて、国内での価値を巡る摩擦や対立が依然として存在します。メルケル氏が総選挙で勝利した後、仏独の両国がどの程度リーダーシップをとって、EU内の改革を進めつつ安定させられるかが鍵でしょうね。

・EU諸国と日本の関係性
 EUと日本では、7月に自由貿易協定について大枠合意がなされたとの報道がなされましたが、協定の細部を詰めるハードルがかなり高いです。アメリカでトランプ政権が2国間の経済ナショナリズム的な貿易政策を強めているので、日本としてはヨーロッパとの関係を強化して、なるべく多国間での国際政治経済の枠組を維持していく事が重要でしょうね。
 また日英の関係は依然として重要であり、イギリス側でも関係の重視を強く歓迎しています。これからイギリス-EU間の離脱交渉がなるべくスムーズに、かつ日本にとってもマイナスにならない形で行われるよう後押しするのが、日本の利益だと思います。

◇公共政策大学院の将来

――本院の今後の課題についてはどうお考えですか

 最初に申し上げた様に、10年少し経ってこの大学院はそれなりの実績を挙げてきたと思うのですが、まだまだ取組むべき課題は沢山あります。
 1つは、本大学院の社会的認知度を上げること。もちろん京大の公共政策大学院の知名度を上げることが目標ですが、今全国に7校ある公共政策に関する専門職大学院全体として、認知度を上げていく事が大きな課題と捉えています。
 2つには、「公共政策」という枠組みについて議論を深めていくこと。日本の公共政策大学院は、第二次世界大戦後にアメリカでできた「パブリック・ポリシー」という言葉を掲げた大学院を輸入したもので、海外の概念を踏台にして進んできました。
 しかし「公共政策」というテーマは、アメリカでも実践的な政策実務を重視した概念でしたから、理論だけでは片づかない曖昧さがあります。日本でも公共政策大学院が定着して、実務や教育の経験もかなり蓄積されてきました。ですから、これからは公共政策とは何か、公共政策の教育・研究とはどういう事かについて、より経験を踏まえて議論すべき段階に来ていると思います。
 3つめは、国際的な視野を重視すること。本院は少人数である事もあり、国際的な交流が十分でない事は、学生の要望を含め我々も認識している所です。しかし実際には、予算などの課題も多くあります。国際的視野を持つ事の重要性は間違いないので、様々な形でもう少し基盤を強化した上で、可能な範囲で取組みたいと考えています。

中西公共政策大学院長

◇鴻鵠会メンバーの方へ

――会員の方々へのメッセージをお願いします

 この大学院を修了した経験を活かして、それぞれの進路先でまず活躍してほしいという事が一番基本のメッセージですが、それに加えていくつかお願いできればと思います。
 ひとつは鴻鵠会の存在をできる限り同窓生に広めて、参加を呼びかけてほしい事です。これまで年1回の同窓会が基本でしたが、今後は現役学生や教員も交えた形で、本会の活動を活性化したいと思っています。そういった場に参加頂くのが一番ですが、まずは鴻鵠会の裾野を広げたいので、名簿への連絡先の登録など軽い形でも構いませんので関与願いたいです。
 さらに言えば、修了生による自身の社会経験を踏まえた情報共有の機会を増やしたいと考えています。今後修了生の方に現役学生向けにレクチャーして頂く機会も増やしていきたいと思いますので、その様な依頼があれば積極的にお引受け頂ければ幸いです。今年7月には、翁邦雄先生の退官と名誉フェローの授与式を兼ねてシンポジウムを開催し、4名の修了生に仕事を通じた公共政策の課題について、ディスカッションして貰いました。

 専門職大学院である本大学院にとっては、やはり実務の場に出た修了生の蓄積が一番の資産です。修了後も長く本院と関わりをもつ事が、ご本人にもメリットになる形にしたいと考えますので、ぜひ末永くお力をお貸し頂きたいと思います。