京都大学公共政策大学院同窓会「鴻鵠会」

訪問インタビュー

おもろチャレンジ採択学生インタビュー

京都大学の体験型海外渡航支援制度「おもろチャレンジ」に、公共政策大学院12期生の磯貝茉莉衣さんの活動計画が採択されました。テーマである「茶文化の伝播者として、茶の聖地をめぐる-文化行政の研究」に沿って、実際に中国・台湾へ渡航され、活動をされた感想をお伺いしました。

(聞き手:10期OB松山祐輔、8期OG山科潤子)

おもろチャレンジとは・・・

 学生の主体的に海外で学んでみようという意欲を後押しすることを目的として、京大卒業生財界トップによる総長支援団体である「鼎会(かなえかい)」の全面的な支援によって2016年度に創設された新しい体験型海外渡航支援制度です。
 学生が自ら渡航先や活動内容をまとめた渡航計画書によって審査され、採択された場合は活動に対して30万円の支援を受けることができます。

(広州にて)芳村茶葉市場内の単叢茶のお店の方と

◇中国茶について

-中国茶に興味を持ったきっかけは何でしょうか?

 きっかけを特定するのは少し難しいですね…初めから「中国茶」という存在を意識はしていなかったと思います。歴史への興味や、健康への興味、中国への興味等が合わさって、現在は中国茶に興味をもっているという感じです。時期で分けると、「茶」に興味を持ったのは幼少期から、「中国茶」との出会いは中学生の時、「中国茶」を深く学んでいこうと決めたのが大学生の時です。
 「茶」に興味を持ったきっかけは歴史への関心からです。私は、幼い頃から歴史を学ぶのが好きで、小学生の時に初めて学んだ世界史の事件が阿片戦争でした。ちょうど、日本の幕末や明治維新の歴史と一緒に教わったのです。阿片戦争は、その歴史的背景(清産の茶を大量に輸入していた英国が、自国からの銀の流出を食い止めるため、インド産の阿片を清に密輸出した過程で勃発したこと)や歴史的意義(西洋の掲げる国際法秩序と清国が維持しようとする華夷秩序の衝突)から近現代史上で重要な史実の一つですが、当時の私は、衰弱した阿片吸飲者たちの脱力感と倦怠感に満ちた様子に胸を痛めると同時に、「茶」が戦争を誘引するほど重要な貿易品であったということに衝撃を受けました。というのも、お茶は、日本人である私にとってはとても身近なものですから、“お茶をめぐって戦争までする?”と疑問を抱かないわけにはいきませんでした。このように、世界史を学び始めた時から、歴史の流れを掴む上で「茶」を始めとする各国の飲食事情を知ることが非常に重要であると考えていましたね。
 中学生になると、健康維持の観点から「中国茶」を日常的に飲むようになりました。中学時代、私はクラシックバレエの稽古にほぼ毎日通っていて、体調管理は重要な課題でした。当時、バレエに適した細長い身体づくりのために、私は少し無茶な食事制限をしていたこともありました。しかし、健康ブームの中で“脂を流してくれるお茶!”として取り上げられていた普洱茶(プーアル茶)を飲むようになってから、バランスよく食事を摂ることが出来るようになりました。普洱茶は今でもよく飲みますが、この時が「中国茶」らしい中国茶との初めての出会いだったと思います。
 そして、大学生の頃、中国への理解を深めるために「中国茶」を勉強し始めました。科目として中国語を履修していたので、中国の文化に興味を持つことで語学学習にも良い影響があるのではないかと考えたからです。漢詩や二胡など色々なものに挑戦したりしましたが、私には中国茶が一番効果的でした。中国茶を学ぶ以前、中国に対してのイメージは、環境汚染や贋物生産王国といった悪いイメージが強かったのですが、中国茶の理解を深める中で、“広大な土地と多種多様な地域性を持った歴史文化大国・中国”の姿を知り、その魅力にどんどん惹かれていきましたね。実際、中国政府も、近年の経済成長を土台として伝統文化の発掘・活用に力を入れているので、中国茶を通して中国国内の様々な取組みに関心を持つことが出来ていると感じます。

-日本茶との違いを踏まえて、中国茶の特徴を教えて下さい。

 中国茶も日本茶も奥が深く、まだまだ勉強不足なのですが、現段階で答えることのできる範囲で答えさせていただくと…日本茶と比べると、中国茶の特徴は“多種多様”なことで、個人的には中国茶の“変革への挑戦”と“生命を感じさせる茶葉”が非常に面白いと感じます。
 日本では、一般的に茶といえば蒸した緑茶やほうじ茶・玄米茶等の分類に分けられ、いくつかの品種が存在するとされますが、中国には日本の数十・数百倍の品種の茶が存在し、茶の種類は数万に及ぶと言われています。中国茶は、大きく六大茶類に分かれていて、一生産量の多い緑茶、烏龍茶に代表される青茶、その他には白茶、黄茶、普洱茶などの黒茶、そして紅茶など、製法の違いによってバラエティに富んでいるのが特徴です。例えば、青茶の中の一つの種類である武夷岩茶だけでも、500種類以上で、年々増加中!であるそうです。

茶葉コレクション・多様な茶葉

 そして、中国茶は、茶自体の普遍性を考慮しつつも、革新的な試みがなされている印象が強く、私にはこの動きがとても面白く感じます。中国茶は、「色、香、味、形」の大きく四つの評価基準で判断するのですが、多くの生産者がそれぞれの基準で良い評価を獲得しようと様々な工夫を凝らしています。例えば、今までふわっと仕上げていた茶葉を扁平形に変形してみたり、伝統的に強めの焙煎で仕上げていた茶葉を軽い焙煎で仕上げてみたりと、新たな挑戦が次々になされています。また、最近では、まだ青い蜜柑の皮の中に普洱茶の茶葉を詰めた「小青柑普洱」が人気になっていて、新たな需要を起こすための工夫も行われているようです。同じ生産者の作った同じ名前の茶であっても、数年前と全く味や形が異なるという場合もあるので、中国茶の新しい動きに目が離せなくなります。
 また、中国茶の茶葉からは“生命”を感じさせられるので、その点も面白いと感じます。日本茶では、抹茶に代表されるように、茶葉を裁断したり崩したりすることが前提とされますが、中国茶は、茶葉本来の形を維持させながら加工を行うことが多いです。例えば、“花が咲く茶”として有名な「工芸茶」も、中国茶の中の一つですね。中国茶は、茶葉の状態では乾燥していますが、湯に入れることで茶葉本来の形が蘇るので、今まで眠っていたものが覚めていくような…そうした生命の素晴らしさに感動します。そして、生命力ある茶葉をいただくことで、自分が人間として、自然からの恵みを受けながら生きていることに気付かされますね。私にとって、茶を飲むという日常の行為は、自然に触れることのできるリフレッシュの時間にもなっています。
 ただ、以上のような特徴や面白さは、中国茶だけにも限らないかもしれません。近年は、日本茶の世界でも、和紅茶生産やスタイリッシュな淹れ方の研究など様々な変化がありますし、日本茶の茶葉本来の性質を生かそうとする試みも多いと聞くので、茶業界全体に新しい風が吹いているということかもしれません。

(広州にて)小青柑普洱茶の試飲
(上海にて)緑茶の試飲・生命力ある茶葉

◇今回の渡航について

-今回の渡航テーマは文化行政ということですが、中国茶と行政との関係はどの様なものでしょうか?

 今でこそ中国茶は六大茶類として整理されていますが、これが整理されたのは改革開放の時期で、神農伝説から始まる中国茶4700年の歴史からすると、本当につい最近のことであると分かります。各地域において各々の製法で茶が飲用されてきたようですが、政府が分類を進めることによって、分かりやすく体系化されたという事情があり、こうしたところにも文化と行政との結節点を見ることができます。
 また、中国茶の勉強をしたいと思えば、外国人であっても、中国政府公認の資格を取得するという方法で勉強をすることが出来ます。私自身もこの資格取得を通して中国茶を学び、現在は二つの資格を持っています。中国茶は、とにかく種類がとても多いので、学んでいくうちに途方に暮れることもあるのですが…このように、政府の管理のもとで中国茶が制度として整備されていることは、中国茶の理解を促進させるための大きな助けになっていると思います。ただ、制度があるだけでは広まらないので、中国茶の楽しさや面白さを伝えてくれる方々が多くいらっしゃるということも、とても重要だと思います。

―渡航先ではどのような調査をしましたか?

 今回の渡航では、中国(広州、成都、上海、杭州)・台湾(台北)の五都市を回り、それぞれの地域での茶市場の動向調査と、博物館などの公共施設をはじめ、茶藝館や飲食店など茶を扱っている場所での茶の存在の捉え方・活用の仕方に関しての調査等を行いました。やはり一番思い出深いのは、茶市場の調査ですね。中国の茶市場は非常に大きく、一か所に千以上の店舗が集まっている市場もあるため、とにかく歩き、何杯もの茶を飲ませていただき、ひたすらお茶に関する話で盛り上がる…という夢のような時間を過ごしました。

―中国茶の茶市場とはどのようなものですか?

 中国茶の茶市場は、基本的には茶葉の卸売のお店が集まっているところで、茶葉に加えて茶器や茶関連の家具などが入っている場合もあります。茶市場の規模はそれぞれで異なり、数十ほどのところもあれば、数千ほどお店が集まっているところもあり、お店によっては個人客も受け入れてくれます。
日本茶では、市場に出るまでに、茶師の方々が茶の出来具合を吟味して合組(ブレンド)をするという段階をふむことがありますが、こうした慣習は中国茶ではあまり見られません。そのため、中国茶を購入する際は、試飲をしながら決めるというのが主流です。中国茶の価格は千差万別で、かつ、有名なあるいは高価な茶葉であるから美味しいという関係が必ずしも成り立つわけではありません。(そもそも、美味しいという感覚自体に一定の基準を設けるのは難しいのですが、)品質の高さに関しても名前や価格だけでは判断できないことが多いですね。
 そうなると今度は店側が客を判断して、どのランクの茶葉を試飲として提供するかを検討する余地が生まれます。今回、私は事前アポもなく、学生であることを名乗った上で訪問していましたので、最初は最高級の茶葉の試飲をお願いしても提供してもらえませんでしたが、自分の好みや中国茶への思いを伝えることで、最終的には、良質な茶葉も含め幅広い種類の茶葉を試飲させていただけました。

-具体的にはどのように試飲するのですか

 お茶の種類によって試飲の仕方も異なります。緑茶であれば、グラスの中に茶葉と湯を入れてもらい、そのまま飲むことが多いです。また、烏龍茶等のような香りが高くでる茶を飲む際には、下のような聞香杯と茶杯をセットで使うことが多いです。まずは縦長の聞香杯に注いだ後、茶杯にうつします。そうすることで、聞香杯に香りが残り、茶の香りを楽しみます。その後、茶杯のお茶を飲んで味を確かめます。

(台湾にて)文山包種茶の試飲・茶水が入っているのが聞香杯

―茶を巡る文化の違いについてはどのように感じましたか?

 今回渡航した各都市では、もちろん全てに共通して茶が文化的役割を持っていたのですが、それぞれ別の目的で茶が飲まれているように見えました。以下の認識はあくまで個人的な捉え方ですが、上海では「ファッション」の一形態として茶が飲まれ、広州では「食」の延長として、成都では「生活」の一部分として、台北では「伝統文化」として茶が飲まれていると感じました。特徴的な点を挙げるなら、上海では工芸茶を扱った茶藝館が多く、広州では消化促進のための茶の需要が高く、成都では水筒保有率が最も高く、台北では観光客対応が可能なお茶屋さんがほとんどだった、というような特徴がありました。この経験から、「茶文化」といっても様々なアプローチがあると感じましたね。

(成都にて)屋外の茶座で茶を楽しむ人たち、ゆっくりとした時間が流れる憩いの場

◇公共政策大学院での学びについて

-公共政策大学院に来られた動機と感じられる特徴についてお聞かせ下さい

 大学院進学の動機は、自分の日本人としての基盤を固めるため、ですかね…。私は、学部時代は違う大学で国際法を学んでいました。その中で、国際社会では同じ規範を掲げて共存する努力をしつつも、各国ごとに異なる問題を抱えているという現状を知り、将来は価値観の異なる人々や社会を相手に仕事ができたらと思うようになりました。しかし、このように国際社会で働きたいと思う一方で、学部卒業までずっと東京に住んでいたこともあり、日本全体について何も知らないなという感覚が強くなりました。なので、学びの拠点を京都に移し、学部時代に勉強していた国際法と共に、地方政治等についても学習しようと考え、京都大学の公共政策大学院を進路に決めました。
 本大学院は規模が小さいこともあり、CS(ケーススタディ型講義)を始め、少人数の講義が多いので、教員の先生方や学生と近い距離で自然に議論をできることがとても刺激になっていますね。また、公共政策大学院の特徴の一つでもある学生による自主活動では「長浜まちづくり」に関する調査・研究を行っています。今回の渡航においても中国・台湾の各都市を見て回る中で、まちづくりや観光という観点で長浜の街と比較しながら渡航することができました。公共政策を学んだ後の社会への出口は幅広く、学生の興味も様々です。そんな中での自主活動という仕組みは、学生の探究心の受け皿として良い仕組みだと思います。また、京都大学は今回の「おもろチャレンジ」を始め、留学・渡航に関する制度も充実していて、その点も非常にありがたいと感じています。

-本大学院での学びを通じてどんな社会人になりたいですか

 本大学院では、「自分が社会のために何ができるのか」といった公共性を意識しつつ、日々学び続けようとしている多くの方々と出会うことができ、私自身も今後このような意識を常に持ちながら生きていきたいと考えています。また、今回の「おもろチャレンジ」も含め、大学院では、日本や世界の様々な地域に実際に足を運び、現地の人と接し、そこから情報を得て検討する、といった経験を多く積ませていただきました。この経験から、頭で考えることに加えて、現場から学ぶ重要性にも気づかされたので、このことに常に気を付けながら、世界中の至る所で必要とされる人間になっていきたいです。