京都大学公共政策大学院同窓会「鴻鵠会」

訪問インタビュー

嶋田先生インタビュー

嶋田先生

京都大学公共政策大学院では、今年度から嶋田博子教授が新しく着任されました。嶋田先生は京都大学法学部を卒業後、人事院において様々な政策立案に関わられてきました。そのご経験をもとに、現在は公共政策大学院の学生に対してご指導いただいています。
着任されてから、約半年が経過することを期に、着任されての所感、長く携わられてきた人事行政の中で印象に残る政策立案のお話などについて、お話を伺いました。
嶋田先生のご経歴はこちらのページをご覧ください。
(聞き手: 10期OB松山祐輔)

◇着任されて約半年が経過したところでのご感想をお聞かせください。

 公共政策大学院の皆様に温かく迎え入れていただき、半年なのにずっと昔からいるような気持ちです。法経第四教室に入ると、学生時代によく座っていた席の辺りに、自然に足が向かっていたりします。

 人事院に勤務していた時は、国会対応や法案に関係する業務が多く、ゆっくりする時間がなかなかありませんでしたが、京都大学に着任してからは、時間の使い方の自由度が増し、研究室から眺める夕焼けが素晴らしくきれいだなと感じるなど、豊かな時間を過ごす余裕ができています。

◇担当いただいている講義の内容について教えてください。

 前期の講義では「人事行政論」と「CS現代政策と公共哲学」という2つの科目を担当しました。〔CS(Case Study)は、事例研究を行うための少人数クラスで、具体的政策を素材とする事例を取り扱いながら精密な分析と討論を行う科目群。〕

 「人事行政論」では、最先端の実務の動きを紹介しつつ、生身の人を扱う分野なので、理屈だけではなく実際の人々の行動に与える効果まで考察できるようになってほしいと思いながら講義を行いました。

 「CS現代政策と公共哲学」では、自分がイギリスに留学した際に、それまで仕事や採用試験に関係ないと思っていた哲学の面白さや実生活との結びつきに気づいた経験を伝えたくて、講義に取り入れました。

 哲学をいかにして身近に感じてもらうかについて試行錯誤をしましたが、今回は受講生それぞれに特定の哲学者を割り当てることにしました。毎回、個々の現代政策についての発表担当がいますが、他の受講生は割り当てられた哲学者になりきって、その問題に直面した場合にどう考えるかをコメントします。あらかじめ哲学者の思想についてしっかり理解しなければ発言できませんが、さすが京大生、皆さんの事前学習の甲斐もあり、深い議論を行うことができました。一般的な議論だと、“世間的な相場としては、こういう意見だろう”という表層的なまとめ方になりがちですが、各人が自分の価値判断を徹底的に掘り下げるトレーニングができたのではないかと思います。

 後期は、「行政官の役割規範」と「CS人事改革分析」を担当します。

 「行政官の役割規範」では、これも留学中に言語哲学に触れたことがきっかけで、中立性や専門性を中心に論文を書いているところで、このテキストを授業で使いたいと思っています。これらはとてもあいまいな言葉で、具体的な問題に直面したときに直ちに答えを導きだしてくれるものではありません。判断に迷うような事例に対し、どのように動くべきか、そしてそのとおりに動けるのかを受講生と一緒に考えることができればと思っています。

 「CS人事改革分析」では、今年度は働き方改革を取り上げる予定です。民間の働き方改革はどんな意義があるのか、それを公務の現場に応用しようとしたときに、どのような事態が想定されるのか。政策実現に至るまでには多様なステークホルダーが登場してきます。前期のCSと同様に、各ステークホルダーになりきってもらい、それぞれの立場から議論を進めていきたいと思っています。

◇京大公共の学生の印象をお聞かせください。

 向上心の強さをとても感じます。「学ぶ意欲と能力がある学生を教えられる」というのが京大に誘っていただいた時の言葉でしたが、その通り、こちらが投げたボールを必ず打ち返してくれる印象があります。

 他方で、持っている限られた情報のみを信じて動いている面も感じます。大事に守られた環境で、東京に比べると入ってくる情報量が少ないということが影響しているのかもしれませんが、善意ばかりではない社会に出ていくことを考えると、もっと多角的に情報を取りに行った上で、その情報の精度を見極める能力を養っていく必要性を感じます。

 また、京大公共には学部を卒業してすぐ入学した学生だけではなく、いわゆる社会人学生や留学生も多く在籍しています。議論の場では、それぞれの経験がベースとなり貴重な意見が出てくることも多いので、就職を控えている学生にもそうした社会人学生や留学生の見識の深さに触れられる機会を最大限活かして欲しいと思います。

◇印象に残った政策立案についてお聞かせください。

 人事院に入って、まず関わった大きな政策が週休二日制です。今では週休二日制は当たり前になりましたが、当時、土曜日は半日勤務が基本でした。国際的な標準に向けた官庁への週休二日制の導入は前向きな改革で、その後民間企業にも広がり、社会全体への波及効果を実感できました。

 その後は公務を取り巻く状況に変化が出てくる中で、痛みを伴う改革が続きました。被用者年金一元化のための退職給付調査では、複雑な年金制度を理解するために年金数理(アクチュアリー)の勉強をし、様々なシミュレーションを行いました。精査した客観的な数値結果が政治的な期待とは異なり、厳しい批判を浴びたことで、行政の本来的役割を果たす覚悟ができた気がします。

 また、公務員制度改革の中で、人事院の在り方も根幹から問われてきました。人事院は政治から独立した第三者機関として、普段は採用試験や育成、給与勧告など地味な仕事を担ってきた役所ですが、特異な立ち位置の意味を考える上で、政治学や哲学を学んだことがとても有益でした。

 近年では、障害者採用に携わりました。学生のころから関心がありましたが、成績主義という公務員法の大原則の中で、どのような方法で障害者の方々に能力を発揮して勤務していただけるのか、厚労省や内閣人事局、内閣官房など省庁を超えて協力しながら議論を重ね、海外の状況や民間の先行事例なども参考にしながら、初めての大規模な障害者選考試験の実施に至りました。不十分もあったと思いますが、世の中のために必要だと信じた方向に一歩踏み出すことができました。

 京大公共には、国家公務員を志望している学生が数多くいますが、一口に省庁といっても、それぞれの組織が体現する価値観は様々です。わたしは人事院を希望する気持ちはなかったのですが、結果的に価値観の合う職場に入り、他人がどうであれ自分にとっては本当に大事だと思える仕事に携わることができました。就職活動を控える皆さんも「この省に入りたい」という憧れで止まらずに、自分はどんな社会が実現すると良いと思えるのか、その価値観に合う方向で仕事ができる職場はどこなのかという切り口で、もっと幅広く目を向けるよう願っています。

◇京大公共に在籍する学生に何を学んでほしいかをお聞かせください。

 まず、常に新しい分野を勉強し、自分の頭で考える習慣をつけてほしいと思います。公務員の中でも常にアップデートできる人と現状の枠内でしか考えられない人はいて、その差は歴然としています。

 元文藝春秋社長の池島信平氏の言葉ですが、「本を読め、人に会え、そして旅をしろ」というものがあります。様々な本を通じて知識を獲得することに加え、最近ではSNS等の発展で実際に会わずともコミュニケーションを取る手段はあり、また、旅をした気分にもなれますが、それでも実際に人に会い、現地に赴くことで得られる価値には勝りません。今思うと、学生時代の自分には人と旅が足りなかった。セレンディピティと言いますが、偶然の出会いを幸運に変えられるのは自分のアンテナの感度です。学部を卒業した後、二年間という時間があるわけですから、皆さんには本・人・旅を通じて今後の人生に向けた感度を磨いてほしいです。

嶋田先生