京都大学公共政策大学院同窓会「鴻鵠会」

訪問インタビュー

建林院長インタビュー

建林院長 建林院長

京都大学公共政策大学院では、令和2年度から建林正彦教授が新しく院長に着任されました。院長に就任されて1年が経過したことを期に、新型コロナウイルスへの対応に追われた1年を振り返っていただくとともに、ご専門の政治学についてもお話を伺いました。(聞き手: 10期OB松山祐輔 編集: 8期OG山科潤子)

◇院長に着任され、約1年が経過しました。令和2年度は新型コロナウイルスへの対応に追われたかと思いますが、どのような1年でしたか?

令和2年4月から公共政策大学院の院長となりましたが、いきなり休講措置への対応という大きな課題に直面しました。
休講への対応を検討するための教授会を、そもそもどう開催するかという点から検討が必要となり、法学研究科の動きを参考にしながら、早期にオンラインでの会議開催に移行しました。

授業実施についても、オンライン授業ができるかどうか、新型コロナウイルスの感染拡大が表面化してきた3月下旬から他の先生と実験を重ねながら検討を始めました。
今振り返ってみても慌ただしく、様々な課題への対応を迫られたように記憶しています。

学生に対しては、4月上旬にオンラインで履修指導を行うことができ、PCの画面を通じてではありますが、学生ひとりひとりの顔を見ることができました。
それ以外の教育活動については一旦止まりましたが、その期間中もいずれは対面とオンラインの両面での授業へ移行することを見越して、いわゆるハイブリッド型授業の検討を行いました。
特に音響対策が喫緊の課題であることが分かりましたので、音響設備を早めに調達するとともに、年度末には、公共第1教室、第1RPGルーム、第2RPGルームの改修を行いました。

前期授業についてはひとまずオンラインで実施した所ですが、公共政策大学院は受講者が少人数の科目が多いこともあり、後期授業に向けて、対面でできる講義はできるだけ対面で実施したい旨の要望は伝えていきました。一方で学生の中には、後期にもオンライン講義を希望する声がありましたので、ハイブリット型授業への対応も行いました。冬場に入ると新しい講義形態に慣れてきた事もあり、私の担当講義でも感染状況に合わせて対面からオンラインへの切替えを行いました。

自習室の運用については、前期の後半頃からシフト制を導入し、日毎に利用できる学生を決めることで、自習室内が密集空間にならないよう配慮しました。ただ、利用できる日が予め決まっている事と、オンライン講義も多く学生が毎日大学に来る訳ではないという事もあり、例年に比べ利用者は少なかったようです。
自主活動も含め、できるだけ早い段階で活動の制限を解除できるようにしたものの、これまでに比べると学生と交流する機会が極めて少なくなってしまいました。

◇先生のご専門は政治学ですが、行政や政治の動きが大きくクローズアップされた1年だったかと思います。

様々な場面での評価のとおり、行政機関はこのコロナ禍にうまく対応できていないと思います。
日本のリーダーシップは強まったと思いますが、リーダーシップが強まることと、問題に適切に対応できたかは別の問題です。リーダーシップの強化により、リーダーが考える対策が実行できる状態になっていますが、どのような判断を下すかという話と、その対策が適切かという話は切り分けて考える必要があります。

象徴的だったのは、新型インフルエンザ対策特別措置法(特措法)の改正に向けた動きです。
1回目の緊急事態宣言では特措法が強制力を持たないことが問題となり、知事側から改正に向けた要望が上がりました。自民党が衆参両院で圧倒的な議員数を保有していたことを踏まえると、早めのタイミングで特措法を改正する事もできました。しかし、そうしないまま安倍政権は交代して、令和3年2月3日にようやく特措法の改正案が成立した所です。
リーダーシップが強化される中での判断は、同時にその責任も増大します。そのため、意思決定が先延ばしされる結果に繋がったと言えるでしょう。

また、省庁側も先読みができていないと感じることが多いです。平常時と異なる環境に置かれた際、その対応面に弱点がある事が表面化したのではないでしょうか。

そしてこの点は、公共政策大学院の存在意義にも関連する問題だと考えています。
私は、あらかじめ決まった答えの無い問題にどう対応するかをトレーニングする事にこそ、公共政策大学院の価値があると考えています。これは本院の設立趣旨そのものですが、例えば地球環境問題や新型ウィルスなどの簡単な正解の無い問いに対して、真正面から向き合い、答えを見つけられるかということが重要だと思います。
法律のみをベースにした動き方をすると、法律の上で現在何ができるか、今後何をできるようにするかという面にどうしても焦点が当たると思います。ですが、そうした前例踏襲主義では、そもそも社会に対して何をするかという問いに対しては対応できないのだろうと思います。

現在、公共政策の専門職に求められている事は、次の2点ではないかと考えています。
1つは日々変化する社会の状況を感じ取り、新たな知識を吸収する柔軟性を確保することです。そしてもう1つは、自然科学・社会科学双方への理解を踏まえた上で、自ら問いへ向き合うことではないでしょうか。

◇先ほど公共政策大学院の意義のお話もありましたが、本院の今後の活動についてはどの様な考えをお持ちですか。

公共政策大学院の目的は以前から変わるものではなく、公共の場で活躍する専門人材を育てることだと考えています。
京都大学公共政策大学院は設立されて10年以上経過していますが、実際に学び続けられるような専門人材を育てられているのか、確認したい気持ちもあります。

公共政策という分野が固有の学問分野としていかに確立するのかについては、先行して公共政策研究が行われてきたアメリカでも100年以上前から模索されてきました。しかし未だに明確にはなっておらず、この先、確立されることもないと考えています。
私は、変化する社会の中で多彩な分野の知見を活用しながら、簡単な正解の無い問題に向き合う事が公共政策だと考えています。ですから、公共政策が固有の学問分野として確立するかどうかは問題ではないと思います。

よく、公共政策はアートかサイエンスかという問いを立てられることがあります。問いの見方によっては、アートは結果重視で政治家寄り、サイエンスは過程重視で行政官寄りという考え方もできます。しかし、いずれにしても意思決定には責任を伴いますので、エビデンスに立脚することは重要だと考えています。

京都大学公共政策大学院では、難しいけれども解決すべき様々な課題に対し、エビデンスに基づいた政策立案ができるような学生を、引き続き育てていきたいと考えています。